RUSSIAN POLITICS / UENO'S SEMINAR
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このブログの管理人(上野俊彦)の見解は管理人個人のものであり、管理人の所属する上智大学を代表するものではありません。
広告は管理人および管理人の所属する上智大学とは無関係です。掲載されている写真はとくに断りがない限り管理人が撮影したものです。

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1917年11月7日の出来事について再び

ロシア連邦共産党の党員たちが赤旗をなびかせて行進している場面を撮した写真は日本の新聞でも今朝の朝刊に比較的大きく掲載されていましたが、共産党が11月7日を記念して祝うのは当然ですし、彼らのraison d'etreでもあります。しかし、私は、そのことではなく、現在のロシア政府と少なくない国民が11月7日について沈黙していること、それに比べて日本では学会などを中心に「ロシア革命100年」行事があちこちでおこなわれていること、そのことが興味深いことだと思っています。

私は1995年に共著で出版した『CIS[旧ソ連地域]』(自由国民社)という本の中で、1917年11月7日の出来事を記述した節のタイトルを「ボリシェヴィキの権力奪取」とし、「10月24〜25日、いまやボリシェヴィキが多数派となったペトログラード・ソビエトに忠誠を誓う首都の守備隊と武装した労働者は、ボリシェヴィキの指揮下に、臨時政府に対するクーデターを決行し、政府は崩壊した」と書きました。

すると、多くの先輩たちから、「あれは革命であってクーデターではない。君は十月革命の歴史的意義を貶めるのか」と叱責を受けました。

私は、当時すでに、ロシア革命、すなわちロシアの体制転換は、1917年2月(ユリウス暦)に始まり1922年12月のソ連建国に終わるプロセスであって、1917年10月24日の深夜から25日の早朝にかけてペトログラートで起きたことは、全体としては少数派であったボリシェヴィキが政権を奪取した(それをクーデターという)、それゆえその後、他党派を抑圧せざるを得ず、内戦に至ることになったのだと考えていましたから、その批判は覚悟の上で、日本において書かれたロシア政治史の本で、おそらく初めて「十月革命」ではなく「クーデター」と書いた本を出したのです。

もちろん私がその考えに至ったのには、学生時代からの研究の結果でもありますが、何よりも、1990〜92年のモスクワ在勤中にロシア人たちとともに、ソ連共産党の権威が失墜し、ソ連国家が崩壊していくのを目の当たりにし、それとともにロシア人たちが学んできた歴史そのものが目の前で崩壊していく、それを一緒に見ていたからです。そして、それまでもそうでしたが、なお一層強く思ったのは、歴史をあれこれと評価するのではなく、起こった事実そのものをきちんと見極めていくことが大切だということでした。

ちなみに、その意味では、その後さらに学んだことですが、11月7日の臨時政府の崩壊は、武装蜂起した労働者と兵士たちが、臨時政府の首脳たちが集まっていた冬宮(エルミタージュ)に突撃していくというエイゼンシュテインの描いた映画とはまったく異なり、秘密工作部隊が無防備の宮殿を制圧し、臨時政府の閣僚を逮捕していく静かなクーデターであったことを知ったことは重要なことでした。11月7日の出来事を、労働者と兵士の華々しい武装蜂起だったという「神話」に祭り上げたのは、ボリシェヴィキによるクーデターを「革命」にしたかったボリシェヴィキ自身だったのです。

| about Russia | 22:52 | comments(0) | - |
11月7日って?

今日は2017年11月7日。

100年前の1917年に、いわゆる「ロシア革命」が起きたことから、今年は「ロシア革命100年」と銘打ったシンポジウムや講演会が数多く開催されている。

そしてとくに、今日、11月7日は、100年前の1917年11月7日にロシア社会民主労働党(ボリシェヴィキ派)が武装蜂起によって臨時政府を打倒し、ボリシェヴィキ派の指導者であったレーニンを首班とする「臨時労農政府」が成立した「大十月社会主義革命」が起きた日であることから、ロシア革命100周年にあたる今年の中でも最も重要な日と考える人がいるかも知れない。

(ところで、11月7日に起きた出来事を「十月革命」と言うのは、1917年当時のロシアでは、現在の西暦であるグレゴリウス暦よりも20世紀では12日遅いユリウス暦が使用されており、ロシアではその日は10月25日であったからである。)

確かに、ソ連時代、この日は、「大十月社会主義革命」記念日として、赤の広場に面するグム百貨店には、マルクスやレーニンの巨大な肖像画が飾られ、赤の広場を挟んでその向かい側のレーニン廟の上にはソ連共産党中央委員会書記長以下の党幹部が、そしてレーニン廟の両側にあるひな壇には外国外交団を含む数多くの招待者が並ぶ前で、華々しく軍事パレードが行われるという、1年の中でも最も重要な祝祭日であった。

それはもちろん、ソ連共産党がロシア社会民主労働党(ボリシェヴィキ派)の後身であり、ソ連、正式にはソヴィエト社会主義共和国連邦が、1917年11月7日に成立した臨時労農政府を中心とするロシア社会主義連邦ソヴィエト共和国の後身国家であったからである。つまり、1917年11月7日は、ソ連のいわば建国の日だったわけである。

しかし、現在のロシアでは、11月7日は、ただのなんでもない日である。それは、現在のロシア政府も、また少なからず国民も、この日が祝うべき記念日であるとは考えていないからである。

「革命」を体制転換と定義すれば、確かに1917年に、ロシアは、立憲君主制から共和制へと移行したのであるから、1917年は革命の年であったと言うことはできよう。しかし、実際の革命は、第1次世界大戦中の1917年3月に立憲君主制のロシア帝国が崩壊して臨時政府が成立したことに始まり、ロシア社会民主労働党(ボリシェヴィキ派)のクーデターを契機とした内戦を経て、1922年12月30日にソ連(正式には、ソヴィエト社会主義共和国連邦)の成立に至るまでの、ほぼ6年間にわたる連続的なプロセスであったと言える。したがって、11月7日は、その革命のプロセスの一つの転機になったことは確かであるが、悲惨な内戦の契機となったという意味でも、またその後に成立したソ連体制の、とりわけスターリン体制に対する歴史的評価という意味でも、現在のロシア国民が11月7日を心から祝う気持ちになれないのは当然であろう。

この時期、現在のロシアでは、11月4日が「国民統一の日」という祝祭日になっているが、7日は、ただ通り過ぎていくだけの日になってしまっている。

 

| about Russia | 16:29 | comments(0) | - |
最高裁判所裁判官国民審査って?
衆議院議員総選挙の陰に隠れて、最高裁判所裁判官国民審査について、ほとんど話題にならない。審査公報(以下にアドレス)さえ、ほとんどの人が見ない。
http://www.h29syuugiinsen.metro.tokyo.jp/…/…/shinsa_koho.pdf

もちろん、それには、以下のような理由がある。

〆嚢盧枷十蟶枷輯韻旅駝運該困良要性について国民のあいだに合意がない。
⊃該困諒法が、信任しない裁判官の名前の上の空欄にバツをつけるという方法で、いわゆるネガティヴ投票になっており、無印の場合は信任したことになるという投票方法のため、実際には、ほとんどの人が信任・不信任を考えず、また考える材料もないまま、投票用紙に何も記入せず投票して、結果的に圧倒的多数が「信任していることになっている」。
審査対象となる最高裁判所裁判官についての情報がほとんどない(公報でのわずかな情報のみで、審査対象となる裁判官のメディア報道もインタビューもなく、顔も知らない)。

こんな訳で、誰も、この国民審査の制度のナンセンスさを気にかけなくなっている。

もし、信任の場合にはマルをつけるという方法なら、現状では、誰も信任されなくなる可能性があり、それでは困るために、審査対象の最高裁判所裁判官は自身の仕事ぶり、判決(とくに、選択的夫婦別氏制度、いわゆる選択的夫婦別姓制度を求めた訴訟が退けられ現行民法が合憲とされた判決、一票の重みの格差を訴えた衆議院および参議院の選挙結果に対する違憲訴訟に対する判決など、重要で、メディアでも取り上げられた裁判の判決など)についての考え方などをアピールし、国民に信任を得るよう努力するであろうが、今の方法では、どうせ選管も本人も何もしなくても自動的に信任されるのだから、誰も危機感を持たない。

こんな形式だけの国民審査をやる意味があるのだろうか、と思う。ナンセンスと言われたソ連時代のソヴィエト代議員選挙(小選挙区で候補者が一人しかおらず、しかもネガティヴ投票だから全員当選する)と同じか、それ以下だ。それ以下、つまりソ連時代のソヴィエト代議員選挙のほうがましというのは、ソ連時代のソヴィエト代議員選挙は、それでも、候補者絞り込みのために選挙前集会をやっていたからだ。

せいぜい、審査公報を見て、よく考えて最高裁判所裁判官国民審査の投票をしようと言いたいところだが、この公報さえ、あまりに情報不足で、審査対象の裁判官の作成した判決文を自分で調べて、判決文そのものや、そこに付けた審査対象裁判官の補足意見などを読んで、ようやく判断できるぐらいだから、なんとも言えない。むしろ、この制度を改善すべきだという声を上げるべきだと言いたい。
| comments | 15:17 | comments(0) | - |
9月10日ロシア地方首長選挙の結果

JUGEMテーマ:ニュース

9月10日(日)に実施されたロシアの統一地方選のうち、地方首長選挙の結果について、まとめてみた。投票データのソースは、ロシア連邦中央選挙委員会のホームページ(数字は暫定的なものである)。当選者の経歴等は上野による調査。

表示の仕方は、連邦構成主体名/当選者名/おもな前職/選挙人数(a)/選挙参加者数(b)/投票率(b/a)/投票参加者数(c)/当選者得票数(d)/当選者得票率(d/c)の順となる。

なお、選挙人数は、いわゆる有権者数のことである。また、選挙参加者数(b)は交付した投票用紙の数、投票参加者数(c)は投票箱に投票された投票用紙の数となり、その差(b-c)は持ち帰り票数となる。また、投票率(b/a)は選挙参加者数(b)を選挙人数(a)で割った数、当選者得票率(d/c)は当選者得票数(d)を投票参加者数(c)で割った数、となる。


ブリャーチア共和国(首長)/ツィジェーノフ、A. S. (Цыденов Алексей Самбуевич)/同共和国首長代行(2017/2/7〜)、運輸次官(2012/6/18〜2017/2/7)/
713,953/297,491/41.67%/297,397/260,028/87.43%

カレリア共和国(首長)/パルフェーンチコフ、A. O. (Парфенчиков Артур Олегович)/同共和国首長代行(2017/2/15〜)、連邦執行吏庁長官(2008/12/29〜2017/2/15)/
534,015/156,376/29.28%/156,215/95,822/61.34%

マリー・エル共和国(首長)/エフスチフェーエフ、A. A. (Евстифеев Александр Александрович)/同共和国首長代行(2017/4/6〜)、モスクワ州仲裁裁判所長(2014/1/30〜2017/4/6)/
542,450/236,640/43.62%/236,600/208,855/88.27%

モルドヴィア共和国(首長)/ヴォールコフ、V. D. (Волков Владимир Дмитриевич)/同共和国首長臨時代行(2017/4/13〜)、同共和国首長(2012/5/14〜2017/4/13)/
622,838/510,796/82.01%/510,451/455,257/89.19%

ウドムルチア共和国(首長)/ブレチャロフ、A. V. (Бречалов Александр Владимирович)/同共和国代行(2017/4/4〜)、ロシア連邦社会院事務局長(2014/6/16〜2017/3/20)/
1,193,685/412,444/34.55%/412,374/322,305/78.16%

ペルミ辺区(知事)/レシェトニコフ、M. G. (Решетников Максим Геннадьевич)/同辺区知事代行(2017/2/6〜)、モスクワ市政府大臣・経済政策発展局長(2012/4〜2017/2)/
1,971,870/738,714/38.71%/838,257/687,889/82.06%

ベルゴロド州(知事)/サーフチェンコ、E. S. (Савченко Евгений Степанович)/同州知事(1993/12/18〜)/
1,232,374/673,998/54.69%/673,965/466,971/69.29%

カリーニングラート州(知事)/アリハーノフ、A. A. (Алиханов Антон Андреевич)/同州知事代行(2016/10/6〜)、同州政府議長代行(2016/7/30〜10/6)、同州政府副議長(2015/9/22〜2016/7/30)/
801,351/315,337/39.35%/315,187/255,491/81.06%

キーロフ州(知事)/ヴァシリエフ、I. V. (Васильев Игорь Владимирович)/同州知事代行(2016/7/28〜)、連邦国家登録・課税調査・測地庁長官(2014/3/27〜2016/7/27)/
1,076,750/327,207/30.39%/327,015/209,402/64.03%

ノヴゴロド州(知事)/ニキーチン、A. S. (Никитин Андрей Сергеевич)/同州知事代行(2017/2/13〜)、NPO「戦略イニシアチヴ」理事長(2011/7〜2017/2/13)/
505,412/143,313/28.36%/143,264/97,405/67.99%

リャザニ州(知事)/リュビーモフ、N. V. (Любимов Николай Викторович)/同州知事代行(2017/2/17〜)、「統一ロシア」下院議員(2016/9/18〜2017/2/17)/
928,667/335,721/36.14%/335,670/269,078/80.16%

サラトフ州(知事)/ラダーエフ、V. V. (Радаев Валерий Васильевич)/同州知事代行(2017/3/17〜)、同州知事(2012/4/5〜2017/3/17)/
1,930,142/1,057,605/54.79%/1,056,356/788,352/74.63%

スヴェルドロフスク州(知事)/クーイヴァシェフ、E. V. (Куйвашев Евгений Владимирович)/同州知事代行(2017/4/17〜)、同州知事(2012/5/29〜2017/4/17)/
3,401,744/1,269,560/37.32%/1,269,210/788,942/62.16%

トムスク州(知事)/ジヴァチキン、S. A. (Жвачкин Сергей Анатольевич)/同州知事代行(2017/2/21〜)、同州知事(2012/3/17〜2017/2/21)/
771,404/198,892/25.78%/198,822/120,441/60.58%

ヤロスラヴリ州(知事)/ミローノフ、D. Yu. (Миронов Дмитрий Юрьевич)/同州知事代行(2016/7/28〜)、内務次官(2015/12/23〜2016/7/28)/
1,021,588/346,097/33.88%/345,867/274,328/79.32%

セヴァストーポリ市(連邦的意義を有する市)(知事)/オフシャンニコフ、D. V. (Овсянников Дмитрий Владимирович)/同市知事代行(2016/7/28〜)、通商産業次官(2015/12/23〜2016/7/28)/
318,578/108,982/34.21%/108,953/77,406/71.05%

こうして見ると、80%以上の高得票率を獲得した首長が16人中6人もいるということもさることながら、投票率が30%台の連邦構成主体が8つ、20%台が3つとなっており、投票率の低さが目立つ結果となっている。日本でも、知事選の投票率が20%台、30%台ということは決して珍しくはないが、昨年のロシア下院選も投票率が47.88%と下院選の投票率としては過去最低だったこともあり、気になるところではある。

連邦構成主体レベル以下の選挙で特筆すべきことは、モスクワ市の区議選で、第一党の「統一ロシア」に次ぐ第二党の地位をリベラル系野党の「ヤーブラコ」が占めるという意外な結果が出たことだ。もっとも、1,500あまりあるモスクワ市の区議の議席のうち176議席を獲得しただけではあるのだが。

| about Russia | 00:04 | comments(0) | - |
ヴラジヴォストークでの日露首脳会談と北朝鮮問題

ヴラジヴォストークでの日露首脳会談で、北朝鮮問題に対して、安倍総理とプーチン大統領は、9月3日の北朝鮮核実験は、朝鮮半島及び地域の平和と安定に対する深刻な脅威であるとの認識では一致したものの、安倍総理が米政府の提案した石油禁輸を含む新たな制裁決議案を念頭に制裁の強化を主張したのに対して、プーチン大統領は、制裁の強化に反対し、米韓合同軍事演習の停止などを含む「段階的な問題解決」と話し合いによる解決を主張した、とのことだ。

北朝鮮と休戦ラインを挟んで隣接し、休戦ラインからほど近いところに人口1000万を超える首都ソウルがある韓国も、米国との合同軍事演習を実施したものの、強硬策には反対している。

私は、北朝鮮問題については同じ民族が分断状態になって隣接している韓国の意向が最も重視されるべきだと思う。他方で、太平洋を挟んで遠方に位置して、文字通り対岸の火事である米国の主張に安易に同調すべきではないと考える。

北朝鮮が欲しいのは文字通り自国の安全保障なのだから、制裁の強化や、まして軍事力による恫喝は、返って逆効果だと思う。

北朝鮮を追い込むことは、かつての日本の真珠湾奇襲攻撃という暴挙を繰り返させるだけだと思う。

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武井咲さんのこと

JUGEMテーマ:ニュース

女優の武井咲(えみ、と読むことを最近知りました)さんが、妊娠、結婚ということで、少し話題になっているらしいですが、私にとって興味深いのは、彼女がたくさんCM契約をしていて、それが妊娠・結婚ということから違約金を支払って破棄する的な話が出ていることです。契約の内容を知らないので、契約自体にどうのこうの言えませんが、莫大な違約金を払うっていうような話って、ある種のマタハラ(マタニティ・ハラスメント)だなぁ、って思います。

彼女がどんなCMに出ているか知らないですけれど、彼女をCMに起用している企業が、「武井咲さんが妊娠・結婚するということなので契約破棄します。契約期間中の武井さん側の責任による破棄なので違約金をいただきます」っていうようなことを言ったら、世の中の女性を敵に回すことになり、企業イメージも悪くなると思いますが、どうなんでしょう。

このCMには、独身の若い女優さんを使う、というCMの企画意図はあるのでしょうが、その女優さんが妊娠・結婚するというのは、不思議なことでもおかしなことでもないので、その企業としては、妊娠や結婚した女性も顧客として想定しているなら、その女優さんを使い続けても全く問題はないような気がするけど。

製薬会社は彼女との契約を継続するらしいですけど、当然の選択だと思います。

妊娠したから降格とか配置転換とか、やんわりと退職を勧めるとかって、ブラック企業と呼ばれる要件の一つです。

もし、高額の違約金云々の話が、報道による根拠ない推測だとしたら、報道している側が、マタハラしているということになります。

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ロシア報道における「印象操作」
トランプ米国大統領の取りあえずのこれまでの功績は「フェイク(偽)ニュース」という言葉を流行らせたことだと思う。一方の安倍総理も同様にメディア関連用語とも言える「印象操作」という言葉を流行らせたが、これも秀逸だと思う。
 
話は少し変わるが、春学期に私が担当している「ロシア・ユーラシア地域研究入門1」(以下、たんに「入門1」とする)と「ロシア政治・外交B」(以下、たんに「政治外交B」とする)という授業で、6月末締め切りで、以下のようなレポート課題を出した。
 
【レポート課題】
2016年7月1日以降に公表されたロシア国内政治に関する報道を1つ(必要に応じて複数)取り上げ、それに対するコメントを書く。コメントは、報道の真偽、報道の仕方、すなわち報道の客観性・中立性または恣意性、報道(記事作成者)の意図、報道(記事作成者)のステレオタイプ(型にはまった考え方)またはバイアス、見出しと報道内容の不一致などに対するコメントとする。報道されている事件・事実関係そのものに対するコメントではない。そして、たんなる感想ではなく、問題点・疑問の指摘、批判的視点、いわゆる「突っ込み」などがあることが望ましい。
 
これは、「政治・外交B」のレポート課題で、「入門1」のほうは、1行目の「ロシア国内政治に関する報道」という部分が、授業の内容に合わせて、「ロシア・ユーラシア地域(旧ソ連地域)の歴史または現代政治、あるいは日本との関係に関する報道」としたところが異なるだけである。
 
授業の履修登録者数は、「入門1」が121名、「政治・外交B」が91名なので、概ね200本ほどのレポートが提出された。そのレポートの多くが、取り上げた報道について、「読者をミスリードするものである」といった指摘をしている。読者をミスリードするとは、読者を間違った方向に導く、つまり読者を誤解させる、という意味である。学生のレポートに添付されている報道を読むと、確かに、学生の言うとおりである。
 
ちなみに、今の学生は、紙の新聞をほとんど読まないため、学生がレポートに添付している報道はほとんど、ネット上で公開されている報道である。もちろん、報道の送り手には新聞社もあるが、内外の通信社やテレビ局のものも多い。
 
さて、学生の言う「ミスリード」の典型例として複数の学生が取り上げた報道は、6月12日にロシア全土で行われた反腐敗デモについての報道である。締め切りが6月末だったため、直近のこの報道を取り上げた学生が少なからずいたわけである。
 
念のため、この6月12日のデモについての代表的な報道を以下に示そう。
 
**************************
【朝日新聞(2017年6月13日、紙媒体は同日朝刊9頁)】
ロシアで反政府デモ 高官汚職を批判 首都など各地
 ロシア各地で12日、政府高官らの汚職を批判するデモが開かれた。モスクワでは、老朽化した住宅の建て替え計画への反対派も呼応し、少なくとも数千人が参加したとみられる。プーチン大統領の支持率は8割を超えているが、政府高官や行政当局への不信感は根強いことが浮き彫りとなった。
 極東のウラジオストクでは中心部の広場に300人以上が集まり、「プーチンは泥棒」「政権交代が必要だ」など政府の汚職体質を批判して市内を行進した。
 ただ集会は当局が許可せず、主催者が同日朝に拘束されたほか、プラカードを掲げた人など約10人も警察に捕まった。政権支持派との小競り合いで負傷し、流血する人も出た。
 参加した建設業のアレクサンドルさん(39)は「ロシアは豊富な資源があるのに政権幹部らが懐に入れるので、給料が上がらない。プーチン大統領はやめるべきだ」と話した。
 モスクワでは、デモの呼びかけ人でプーチン政権を厳しく批判し、政府高官の蓄財やぜいたくを暴露してきた野党指導者のナバリヌイ氏が自宅を出たところで警察に拘束された。市中心部は警官隊が多数配備され、ものものしい雰囲気につつまれた。周辺には数千人が集まった。ナバリヌイ氏のTシャツを着た若者や、欧州連合の旗を掲げた若者が次々に警官隊に取り押さえられた。独立系メディアによると、600人以上が身柄を拘束された。
 ナバリヌイ氏は3月26日に、ロシア各地で反政権デモを開くことに成功した。今回はその続きという位置づけだ。
 さらに首都モスクワでは12日、ソ連時代に数多く建設された5階建ての集合住宅建て替え計画への反対派もデモを行った。計画は、今年2月、プーチン大統領とソビャーニン・モスクワ市長が打ち出した。しかし、住民からは「財産権の侵害で憲法違反だ」との反発が噴出。プーチン氏は「無理やり押しつけてはいけない」と発言するなど、火消しに追われている。背景には、建て替え計画の背後に行政当局の利権や腐敗があるのではないかという根強い不信感がある。
 来年3月に次期大統領選を控え、プーチン政権は反政権運動の盛り上がりに神経をとがらせている。
 (モスクワ=駒木明義、ウラジオストク=中川仁樹)

 
【読売新聞(2017年6月13日、紙媒体は同日朝刊7頁)】 
反プーチンデモ900人超拘束
【モスクワ=畑武尊】ロシア各地で12日、プーチン政権の腐敗に抗議する大規模なデモが行われた。3月末のデモに続くもので、独立系メディアによると、モスクワではデモを呼びかけた著名なブロガーのアレクセイ・ナワリヌイ氏(41)ら600人以上が拘束された。
 モスクワ市当局によると、市中心部では約5000人の若者らが集結、プーチン体制下で広がる閉塞(へいそく)感や格差拡大への不満を背景に「プーチンなきロシアを」などと声を上げた。周辺には多数の警官が配置され、緊張した雰囲気が続いた。
 地元メディアによると、西部サンクトペテルブルクなどでも集会が開かれ、全土で900人以上が拘束された。
**************************
 
朝日が「反政府デモ」としているのに対して、読売は「反プーチンデモ」としている、といった細かなツッコミはさておき、学生の言う「ミスリード」というのは、以下のようなことだ。
 
【これらの記事を読んだ読者は、「ロシアでは反政府デモが鎮圧されている。ロシアは言論や集会の自由もない非民主的な国だ」と思うだろうが、これらのデモの参加者が拘束されたのは、これらのデモが反政府デモだからという理由ではなく、許可されていない場所で行われた無届けデモだからだ。デモ主催者が、モスクワ市当局が許可していた場所ではなく、本来、集会やデモを行うことができない市中心部の繁華街で無許可デモを強行した、ということを伝えないことで、あたかもロシア政府が非民主的であると誤解させる報道であり、この報道は読者をミスリードするものである。】
 
確かに、デモが行われ、拘束された参加者がいたのは事実だから、上記の報道は、トランプ氏の言う「フェイク・ニュース」ではない。しかし、ロシア政府は非民主的であるという「印象操作」が行われたのは、間違いのないところであろう。もちろん、学生たちは、だからといって、ロシアは民主的である、ということを主張しようとしているわけではない。学生たちは、現代ロシア政治にも、多くの問題があるということは、十分にわかっているはずだ。
 
ところで、モスクワ市当局はデモを許可しているのは、以下に示すように、別の報道で、すでに明らかになっているのだから、上記の報道は、デモが無届けデモ、または違法デモであることを伝えないことで、「印象操作」していると非難されても仕方ないところだろう。
 
学生は、ちゃんと、モスクワ市当局がデモを許可していることを伝える報道も見ている。たとえば、以下の報道がそれである。
 
**************************
【モスクワ 12日 ロイター】
モスクワ当局は、市中心部から離れた場所でのデモ開催を承認したが、ナワリヌイ氏は11日夜、デモで使用する音響・映像機器の提供を当局の圧力により企業が拒否していると発表。このことからモスクワでのデモ開催場所を市中心部に変更しており、当局がデモを違法とし、機動隊がデモ鎮圧を命じられる可能性がある。
( http://jp.reuters.com/article/russia-opposition-protests-idJPKBN1930BJ )

【BBC NEWS JAPAN 6月12日】
ナワリヌイ氏は当初、別の場所でデモ開催の許可を得ていたが、当局が参加者たちを「侮辱しようとした」として、モスクワ中心部で開くことを決めた。
( http://www.bbc.com/japanese/40245203 )
**************************
 
今回のレポート課題のために、あらためて日本のロシア報道を読んで、そのひどさに驚いた学生が多かったようだ。
 
私は、以前から、折に触れて、日本のロシア報道について批判してきた。たとえば、2005年のNGO・NPO法改正や、2011年12月の下院選の「選挙不正」に関する報道については、論文(「2005年12月のいわゆる『「NGO関連法」修正法』の制定過程について」『ロシアの政策決定−諸勢力と過程』日本国際問題研究所、2010年3月; 「下院選から大統領教書、そして改革へ?−2011年12月下院選に対する『不正のない選挙のために』運動の意味とその影響−」『ロシアにおけるエネルギー・環境・近代化』日本国際問題研究所、2012年3月)の中で批判しているが、とくに2011年下院選後の報道には、明らかに「フェイク・ニュース」、つまりなかったものをあったとするニュースも見られた。
 
まあ、多くの人が、ロシアに関連するニュースなど気にもとめないでほしいと願うばかりである(笑)。

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「テロ等準備罪」新設法案のどこが問題なのか?

私が最も問題だと思うのは法案第6条の2の規定だ。この規定をわかりやすく説明すると以下の通りとなる。

【同じ団体に所属する2人以上の人物が、4年以上の懲役または禁錮の刑が定められている犯罪行為を計画し、その計画に基づいて資金または物品の手配、関係場所の下見その他の準備行為を行ったとき、その人物は、2年以上の懲役または禁錮の刑に処せられる。】

政府が、「テロ等準備罪」と言っているから、テロの準備をしたら罰せられるのだと思うかも知れないが、法案は、「4年以上の懲役または禁錮の刑が定められている犯罪行為」を準備した場合に適用される、と規定している。

で、この法案では、この「4年以上の懲役または禁錮の刑が定められている犯罪行為」にはどのようなものがあるかを「別表第三」に列挙している。それを見ると、私文書偽造、強制わいせつ、収賄、重要文化財損壊、補助金不正受給、特許権・意匠権・商標権侵害、脱税など、非常に多くの、ひょっとしたら普通の人でも犯してしまう可能性のある犯罪が列挙されている。

つまり、テロだけでなく、「4年以上の懲役または禁錮の刑が定められている」普通の(というのも変だが)「犯罪行為」を計画してそのために物品や資金を集めたら犯罪となる、ということだ。

また「団体」というのが、「テロリスト集団」だから、一般の団体は関係ないと考えるかもしれないが、この法案で言う「団体」は、その「4年以上の懲役または禁錮の刑が定められている犯罪行為を実行することを目的とする団体」としているから、これまた普通の(というのも変だが)団体が、この法案の対象となる可能性は十分ある。

警察や司法機関は善意で仕事をしているという性善説に立てば話は別だが、この条文を見る限り、当局がその気になれば、いくらでもテロ等準備罪で人を処罰することができるように思える。

刑法は、基本的に行われたことに対して罰するということになっていて、未遂を罰する場合でも、かなり限定されている。殺人という重大犯罪に関してさえ、「○○を殺してやる」と叫んだだけでは、殺人未遂にはならない(相手に聞こえて、相手が恐怖したら脅迫罪にはなる)。ところが、2人がひそひそ話で「○○を殺してやろうか」と冗談で話したあと、コンビニに荷造りひもを買いに行ったら、殺人「準備罪」になる可能性がある。

法務省ホームページに出ている法案のPDFファイルのアドレスは以下の通り。http://www.moj.go.jp/content/001221008.pdf
また、第6条の2の原文は以下の通り。

第六条の二 次の各号に掲げる罪に当たる行為で、テロリズム集団その他の組織的犯罪集団(団体のうち、その結合関係の基礎としての共同の目的が別表第三に掲げる罪を実行することにあるものをいう。次項において同じ。)の団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を二人以上で計画した者は、その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは、当該各号に定める刑に処する。ただし、実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。
 一 別表第四に掲げる罪のうち、死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮の刑が定められているもの 五年以下の懲役又は禁錮
 二 別表第四に掲げる罪のうち、長期四年以上十年以下の懲役又は禁錮の刑が定められているもの 二年以下の懲役又は禁錮

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2016年12月15〜16日の日露首脳会談について
今回のプーチン大統領の日本への公式訪問は11年ぶりのことだという。もっとも、日露の首脳会談そのものは、もっと頻繁に行われており、2012年5月にメドヴェージェフ氏に替わってプーチン氏が3度目の大統領に就任し、安倍氏が2012年12月に2度目の総理大臣に就任して以降、2013年に4回、2014年に3回、2015年に2回、そして今年、2016年は今回で4回目である。年ごとの首脳会談の回数を見てみると、ウクライナ政変の影響もあって、2014年、2015年と減少傾向にあったが、2016年は2013年と同じレベルに戻ったことになる。

上記の2013年から現在までの時期で、日露関係がもっとも良好だった時期は、安倍総理のモスクワ訪問により首脳会談がおこなわれ、「日露パートナーシップの発展に関する日本国総理大臣とロシア連邦大統領の共同声明」が発表された2013年4月29日から、G7首脳でただ一人、安倍総理がソチ・オリンピック開会式に出席し、首脳会談がおこなわれた2014年2月8日までの時期だったと言える。

上記の2013年4月29日の「共同声明」では、日露間の「戦略的パートナーシップ構築」を目指すことが確認されるとともに、平和条約締結交渉については、「第二次世界大戦後67年を経て日露間で平和条約が締結されていない状態は異常であること」、「平和条約問題の双方に受入れ可能な解決策を作成する交渉を加速化させる」こと、「互いの国民感情への配慮を背景として平和条約交渉を進めること」が確認されている。とくにこの「共同声明」において、日露が「戦略的パートナーシップ構築」を目指しているとの認識が示され、日露間で初めて日露外務・防衛閣僚協議、いわゆる「2+2」の立ち上げが合意されたことは、我々に、日露関係が新しい段階に入りつつあることを感じさせるものであった。そして、実際、2013年11月2日に、日露外務・防衛閣僚協議が実施され、翌年2月のソチ・オリンピック開会式にG7首脳の中でただ一人、安倍総理が出席したことで、日露関係は新段階に入ったことが立証された。

しかし、その直後に起きたウクライナ政変と、ロシアによるクリミアの併合、それに対する日本および米国・EU諸国による対露経済制裁の実施は、新しい段階に入ったかに見えた日露関係を再び後戻りさせてしまった。

かくして、今回の日露首脳会談の最も重要な目的は、日露関係のレベルを、日露関係がもっとも良好だった2013年4月29日から2014年2月8日までの時期のレベルに戻すことであった。日露首脳会談の前には、日本ではつねに、いわゆる「北方領土」問題の解決、すなわち平和条約締結に向けて、どの程度、日露関係が前進するのか、ということが話題となる。そして、もっと性急な人々は、島がいくつ返ってくるのか、ということを言い始める。しかし、今回の首脳会談は、ウクライナ政変後、後退してしまった日露関係を元に戻すことであって、平和条約締結交渉に関する具体的な進展は期待できなかった。

したがって、今回の日露首脳会談に対して平和条約交渉の進展を期待していた日本の人々は、その結果に失望したであろう。しかし、今回の首脳会談の目的は、日露関係の修復または回復だと考えていた人々は、その目的はある程度達成されたと評価していると考えられる。とくに「2+2」が再開されることは、日露関係の修復を裏付けることとなるという点で、注目に値する。

ところで、今回の日露首脳会談後の共同記者会見での安倍総理とプーチン大統領の発言の中で注目すべき部分は、両者が、ともに、)綿四島(南クリル)における共同経済活動が「平和条約締結交渉の継続のための互恵的な雰囲気をつくり出すことを可能にする」(プーチン)というロジックを用い、◆崙露、両国民の相互の信頼なくして、日露双方が受け入れ可能な解決策を見つけ出し、平和条約締結というゴールにたどり着くことはできません」(安倍総理)、つまり相互信頼が重要、との認識を示したことだ。

とくに、,遼綿四島(南クリル)の共同経済活動の実施に向けて、ようやく日本側がわずかにロシア側に歩み寄ったことは注目に値する。1990年代にプリマコフ氏(元外相、元首相)が提案し、1998年11月13日に発表された「日本国とロシア連邦の間の創造的パートナーシップ構築に関するモスクワ宣言」において、北方四島(南クリル)における「共同経済活動に関する委員会を設置するよう指示する」と書き込まれて以降、18年ものあいだ、まったく具体的な進展のなかった共同経済活動が、今回の首脳会談後に、少しでも動き始めるとしたら、これはロシア側にとっては外交的勝利と言えるであろう。もちろん、日露間の係争地である北方四島(南クリル)における共同経済活動は、モスクワやサンクト・ペテルブルク、あるいはウラジオストクなどに日露の合弁企業が設立され、活動を始めるのとはまったく意味が異なり、主権や法律に関係する難しい問題があって、そう簡単に進むことではない。だからこそ、もしこの共同経済活動の実施に向けて日露双方が歩み寄ることができれば、平和条約締結に向けて前進することにつながると、両国首脳は考えているのであろう。

今回の首脳会談では、日露のビジネスマンが集い、日露間で新しいビジネスが数多く動き始めることが約束された。このことについては、おおむね順調に進むと思われる。やはり、注目すべきは、北方四島(南クリル)における共同経済活動が動き出すかどうかである。
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5月8日付『北海道新聞』朝刊7面にインタビューが掲載されました
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